インドに着き、飛行機から降りるとモワッとした空気と独特のカレーのようなにおいが立ち込めていました。
そこから始まった今年8月、1ヶ月間のインド、プーナ滞在は自分にとって刺激であると同時に学びある1ヶ月となりました。
プーナは初めてでしたが、インド訪問は私にとって3回目となります。来るたびに驚かされるのですが、今回もインドの迫力には圧倒されました。車やリクシャー(バイクに人を乗せる台が付いた独特の車。プーナではタクシーではなく、主にこれで移動します。)は縦横無尽に、ときには反対車線を対向車に向かって走っており、乗っている私はのけぞる事もしばしばでした。その車やリクシャーの走っている僅かな隙を人が道を渡って行きます。道端にはお店の側で仕事を持っていないであろうおじさんが何をするでもなくだらりと座っており、その横でそのおじさんと同じように気の抜けた犬が警戒することもなく無防備に寝転んでいます。その隣ではインドの服をまとった女性が火を焚いて炊事をしているかと思えば、屋台ではTシャツ半ズボンの人や学生に混じり、きちっとした身なりをしている人とがちょっとした腹ごなしやチャイをすすっています。同じ風景の中でいろいろなものが一体として混在している姿は日本ではなかなか出会うことはありません。
しかし、インド(プーナ)ではそのいろいろなものが混在していることが普通に受け入れられ、その中で生活が営まれていました。他の人がどうであるとか、何をやっているかなどはあまり気にせず「我が道を行く」ようでした。
例えば、食事やチャイを飲みによく行ったカフェではテーブル毎に男性の人が付いてくれます。その人が注文をとったり、ものを運んでくれたりとするのですが、その人はまったく愛想を振りまきません。日本でいえば、客に対しては笑顔で丁寧な言葉づかいが当たり前であり、そうでない場合はクレームの一つや二つ出そうですが、そこの男性は愛想がないどころか、むしろ、むすっとしているのではないかと思えるほどです。しかし、仕事はプロとしてしっかりとしており、たくさんの注文でも間違えることなく持ってきたり、よく来る客の顔は覚えていたりします。
一方、別の人が担当になった時には、日本に興味があったのか恥ずかしそうに話しかけて来て、談笑することもありました。仕事をしていても、それぞれが自分の感情に正直であり、日本のように接客業であるからと無理して笑顔を作ることをしないのでしょう。または、その必要性がない社会なのでしょう。ここインドでは、自分が自分としてあまり無理をせず、そのままでいられる社会、もしくはあまり他を気にしない風土が根付いているように感じました。また、「こんなところだからヨガが生まれたのか…。」と妙に納得させられました。
そのようなインド、プーナの中心街からすこし外れたのどかな雰囲気の場所にラママニ・アイアンガー・メモリアル・ヨガ・インスティチュート(Ramamani Iyengar Memorial Yoga Institute: RIMYI)があります。少しだけ紹介すると、インスティチュートは3階建てで、1階受付、トイレ、Book Storeとプラシャンジーの執務室、2階、3階はクラスのあるホール、地下には図書室があります。2階はGeneralクラスが行われ、3階はBeginnerクラス、Intermediateクラスが行われています。インスティチュートの雰囲気はまさに道場で、足を踏み入れるとピンとした緊張感のある空気があるように感じられ、気持ちがシャンとします。また、徹底してヨガをする環境(逆にヨガ以外のものは排除された環境)はヨガセンターと似ており、初めてではありましたが馴染み深く感じました。そのインスティチュートにはヨーロッパ、アメリカ、南米、オセアニア、アジアと世界各国から人が集まってきていました。当然のことながら皆ヨガのために来ているのですが、その真剣さ、熱心さの度合いは非常に高く、とても刺激となりました。
インスティチュートでのクラスは早朝のクラスと夜のクラスがあります。また、クラスのない時間には時間が指定されていますが、ホールで練習したり、Book Storeで本やDVD、ヨガプロップスを物色できたり、また、図書室で調べ物が出来ます。私はIntermediateクラスへ参加できることになり、月曜日から土曜日まで主に早朝のクラスへ参加していました。クラスは英語で行われます。インストラクションは丁寧に細かく行われるため、英語が分からなければクラスに出る意味が半減します。また、英語が分からない人のためにクラスが止まることがあるため、英語は必須であり、インスティチュートでも基本事項として非常に重要視されていました。単語はヨガセンターで純子先生がインストラクションで使う単語もたくさんでてくるため、思ったよりも聞き取ることができましたが、最初はヨガで使われる独特な英語、インド訛りのある英語には馴染みがなく、慣れるまで時間がかかりました。
Intermediateクラスは曜日により教えてくださる指導者が異なり、私は5人の指導者に教わることができました。第1週は立ちポーズ、第2週はインバージョン、第3週はバックベンズ、第4週はプラーナーヤーマと週によりテーマが決まっていましたが、指導者により進め方のタイプ、インストラクションのポイントが異なりとても興味深いものでした。例えば、お歳を召した男性のバルサハブさんは一つ一つのアサナをその逸話を含め丁寧にインストラクションし、若い男性のラヤさんは次々とシークエンスを進めていく勢いがあり、ラージラクシュミさんは丁寧で細かな身体についてのインストラクションと自ら次々とアジャスティングを行い、キショールさんは毅然とした雰囲気でアサナでの内臓の動きのインストラクションに重点を置いていました。
第2週目に新型インフルエンザの影響でインスティチュートがお休みとなるハプニングがありましたが、この1ヶ月の滞在で特に印象に残っていること、感じたことは3つあります。
1つ目はグルジーにお会いした事です。緊張しながら初めてお会いしたグルジーはとても大きく感じました。ただし、それは圧倒的な雰囲気や凄さというよりは大きく包み込むような優しさに感じました。グルジーはインスティチュートと同じ敷地内に住まれており、朝の練習の際には皆の自己練習に混じって毎日練習なさっている姿をよく見かけました。午後は図書室の自分のお席にて世界各国からの問い合わせやインタビューに答えたり、ヨガに関する研究に打ち込んでいらっしゃるとのことです。90歳になっても精力的に活動を続けていらっしゃる熱心さには引き付けられるものがありました。
2つ目は、これは帰ってきてから明確に感じたことですが、体が目に見えて変わっていたことです。毎日の継続したクラスと練習は大きな理由のひとつであると思いますが、1ヶ月だけでの劇的な変化があったのは、普段の生活から物理的に離れたことで心もそこから離れた環境でヨガに取り組めた事も大きな理由であったと思います。仕事や生活にいかに自分が囚われているのかということを如実に実感させられることでありましたし、同時に、普段の生活の中で自分をいかにインドにいた時のような心の状態を保って練習できるようになるかということはこれからの大きなチャレンジであると感じました。
最期に、これは2つ目のこととも関係してきますが、私のヨガに対する捉え方が変わったことです。今までヨガは自分の生活に密接に関係しているということは、身体の側面、つまり生活の中での習慣や自分の癖が身体に与える影響 等、身体に関わることに重きをおいて考えていたところがあります。この度のインドの滞在では、前述したように心の変化と体の変化の関連を実感したことの他、ヨガに没頭できる環境であったこと、また環境の極端な変化とそれに伴う心のあり方の変化がはっきりと認識できたため、心の状態が身体に与える変化とそれに対するアサナの効果を普段より感じることができ、ヨガが性格や心のあり方にも深く関連していることを改めて感じることができました。
今回のインド滞在はとても実りあるものでした。これからしっかりと練習を積み重ね、再びプーナのインスティチュートを是非訪れたいと思うと同時に、あのおいしいターリィ(食堂で食べられるカレーの定食)を是非再び食べに行きたいと思っています。